特許をどう使うか

先日、任天堂コロプラへの訴訟の中で、賠償請求額を96億9900万に倍増させたとして話題になりました。

そもそも、任天堂は他社に特許を侵害されていても、業界発展のためならば黙認するというスタンスをとっています。

ですが、今回の場合はコロプラ任天堂の特許をパクって新しく特許を取り、その特許で儲けようとしたため任天堂が激怒しました。

今回注目したいのは、「業界発展のためなら特許を侵害されていても黙認する」という任天堂のスタンスです。

実は、特許をとって技術を自社だけで使おうとした場合、その技術が業界に全く広まらない可能性があります。

そのせいで市場が狭まり、最終的には全く儲からないというということがあります。

最近の技術経営では、「技術はみんなで使って市場を広げる」という考え方がスタンダードになっています。

今回は、トヨタを例にとってみてみましょう。

トヨタは、2019年にハイブリッド車に関する特許を無償提供すると発表しました。

なぜ、このようなことをしたのでしょうか。

その背景には、近年の電気自動車の躍進があります。

中国勢が最近、電気自動車の生産販売台数をグングン伸ばしています。

正直言って、ハイブリッド車の市場は将来伸びが悪くなります

そのため、意地でもトヨタハイブリッド車の市場を維持しようとしています。

特許を無償で提供することで、他社にハイブリッド車をどんどんつくってもらおうというのがトヨタの思惑です。

ただ、はっきりいって、遅すぎます。

電気自動車の市場が急激に伸びている今、ハイブリッド車に投資する企業がどれだけいるでしょうか。

なぜ電気自動車に参入する企業が多いかというと、電気自動車はつくるのが簡単だからです。

これを技術経営では、モジュラー型(組み合わせ型)といいます。

モジュラー型では、部品を組み合わせることで製品が完成します。

電気自動車では、モーターや電池、タイヤなどの部品を組み合わせるだけでいいのです。

そのため、つくるのが比較的簡単です。

一方、ハイブリッド車インテグラル型(摺り合わせ型)といい、つくるのが難しいです。

インテグラル型では、部品と部品を相互に細かく調整する必要があります。

そのため、高い技術力が必要とされます。

電気自動車では部品を組み合わせるだけでいいので、つくるが簡単です。

ですが、ハイブリッド車は部品ごとの微細な調整が必要なため作るのが難しく、参入する企業が少ないのです。

トヨタは技術を無償で公開することで、ハイブリッド車をつくるノウハウを他社に広げていこうとしているのです。

さて、特許に関して最近ではパテントプールというものが普及しています。

パテントプールは、多くの会社が特定の技術に関する特許を持ち寄って、各社で相互利用するというものです。

クロスライセンスが複数社で行われるというイメージです。

MPEG-2という映像関係の技術は、パテントプールの最も有名な例とされています。

近年では、特許の戦略ひとつで技術の広がり方が変わります。

特許とは少し違いますが、AdobeのPDFはすごく優秀な戦略を取りました。

PDFはみなさんご存知の通り、文書をどの端末でも同じように綺麗に表示する形式です。

PDFは簡単に出力することができ、簡単に閲覧することができますよね。

ワードやエクセルで簡単にPDFを出力できますし、PDFを閲覧するためのビューアは無料で配布されています。

そのため、PDFをつくる・見るのは無料でできますよね。

無料でこんなに素晴らしいものが使えるのですから、当然利用者は急増しました。

今では、PDFがない世の中は考えられませんよね。

では、PDFをつくっているAdobe社はどうやって儲けているのでしょうか。

実は、PDFを「編集」するためにはAcrobatという有料のソフトが必要です。

ここでAdobeはお金を得ているのです。

つまり、Adobeは無料で最低限の機能を世界中のユーザーを普及させ、「PDFがある世の中」を確立させました。

そして、もっと高度にPDFを使いたい人たちからお金を得る仕組みをつくったのです。

この記事と通して、無料で技術を広めることの大切さを理解していただけたのではないでしょうか。

興味を持った方は、「オープンイノベーション」についても調べてみてください。